家庭用・業務用スタンドミキサーでは、小型化と多機能化が進んでいます。モーターと伝動機構には、限られた取付スペースで必要な動力を確保することが求められます。
特に難しいのはヘッド部の高さを抑えることです。出力、トルク、回転速度、対応機能、寿命、騒音の要件も同時に満たす必要があります。
Power Motorは、扁平型モーター、オフセット配置の固定子巻線、電磁設計の最適化、二系統出力ギヤボックスを組み合わせた駆動方式を開発しました。
駆動系の垂直方向の取付寸法を抑えながら、必要な運転性能を確保し、高速・低速の両機能に対応する設計です。
1. ヘッド部を小型化する扁平型モーター
最初の課題は、モーターが占める垂直方向のスペースです。
扁平構造のモーターに、オフセット配置の固定子巻線を採用しました。巻線の位置と配置を見直すことで、必要な電磁性能を確保しながら駆動系の高さを抑えます。
従来のモーター構造に比べ、コンパクトなスタンドミキサーの設計自由度を高め、ヘッド部の低背化に役立ちます。
単にモーター全体を小さくするのではなく、部品間の位置関係と電磁構成を見直すことが設計の要点です。


図1:扁平型モーターの巻線配置図とモーターサンプル
2. 必要な出力を確保する電磁設計
モーターの低背化は、磁気回路や出力性能に影響する場合があります。そのため、積層構成と電磁パラメーターを併せて検討します。
使用可能なスペースに合わせて、積層厚、巻線構成、電磁パラメーターを最適化しました。
垂直方向の取付スペースを減らしながら、必要な運転出力とトルクを確保することが目標です。
所定の試験室条件で得られた、最高効率点における代表的な測定値を以下に示します。
| 項目 | 最適化設計 | 比較設計 |
| 最高効率 | 55.8% | 71.2% |
| 入力 | 748.2 W | 511.3 W |
| 出力 | 417.6 W | 363.7 W |
| トルク | 283 mNm | 255 mNm |
これらは所定の条件で測定した代表値です。実際の性能は、供給電圧、負荷、回転速度、温度、制御方式、製造公差、使用条件などによって変わります。設計検討の参考値であり、Power Motorの全製品に共通する仕様ではありません。
表に示した測定点では、最適化設計の入力、出力、トルクが高い一方、測定効率は比較設計より低くなっています。
小型スタンドミキサー用モーターは、効率だけで評価するものではありません。取付スペース、必要出力、負荷、温度上昇など、機器全体の要求に合わせた判断が必要です。
3. 複数の機能に対応する二系統出力ギヤボックス
多機能スタンドミキサーは、用途やアタッチメントによって必要な回転速度とトルクが異なります。
高速出力が必要になる用途の例:
- ミルクシェイクの調理
- 果汁・野菜のブレンド
- 穀物・豆類・肉類の加工
- スムージー・氷を使った食品の調理
低速出力が必要になる用途の例:
- 生地の混練
- 卵の泡立て
- その他の低速攪拌
一つの変速比では、両方の運転範囲を同時に最適化することが難しくなります。
そこで、高速側の1:1かさ歯車伝動と、低速側の遊星歯車減速機構を組み合わせた二系統出力構造を採用しました。
3.1 高速出力:1:1かさ歯車伝動
高速側は1:1のかさ歯車伝動です。回転速度比を維持したまま動力の伝達方向を変え、高速出力部をヘッド内に配置しやすくしています。
ブレンド、果汁調理、食品加工、スムージー調理などの高速機能に対応し、駆動系の垂直方向の取付スペースを抑える構成です。

図2:高速側1:1かさ歯車の動力伝達経路
3.2 低速出力:遊星歯車減速
低速側には遊星歯車減速機構を用います。回転速度を下げて出力トルクを高め、生地の混練など、負荷の大きい低速用途に対応します。
高速のかさ歯車出力と低速の遊星歯車出力を組み合わせ、一つのコンパクトな駆動系で複数の運転モードを支えます。

図3:低速側ギヤボックスの構造
4. トルク・回転速度特性
アタッチメントや食材の負荷によって運転条件が変わるため、トルクは駆動系の評価で重要な項目です。
Power Motorは、モーターと伝動系のトルク・回転速度試験を行い、それぞれの出力経路に適した運転範囲を確認します。
高速側は高速のブレンド・混合に、遊星歯車側は低速・高トルクの運転範囲に対応し、より重い混練負荷を受け持ちます。

図4:代表的なトルク・回転速度曲線
曲線は所定の試験室条件で測定したもので、設計検討の参考情報です。実際の出力特性は、ギヤボックス構成、負荷、電源、温度、制御方式、アタッチメント、機器への組込み条件などによって変わります。
5. 寿命検証
家庭用・業務用のいずれも、駆動系の信頼性を確認する必要があります。
消費者の使用状況を模擬した条件で、二つの出力経路をそれぞれ寿命評価しました。
高速かさ歯車出力側
所定の寿命試験条件で、想定する使用期間に対応した試験サイクルを完了しました。
低速遊星歯車出力側
低速側についても、所定の寿命試験条件で、想定する使用期間に対応した試験サイクルを完了しました。
試験は代表的な消費者の使用パターンを模擬したもので、一定負荷での連続運転試験ではありません。
寿命評価結果は、所定条件で得られた代表値です。実際の寿命は使用頻度、負荷、運転サイクル、アタッチメント、環境、保守、製造ばらつき、使い方によって異なり、すべての用途に対する寿命保証を意味するものではありません。
6. 騒音評価
家庭用の厨房機器では、騒音も検討すべき項目です。
所定の騒音測定条件で、代表的な高速運転点を評価しました。
試験条件:
- 暗騒音:≤20 dB(A)
- 試験回転速度:15,000 RPM ±500 RPM
- モーター単体の騒音要求:≤80 dB(A)
上記条件で測定したモーター単体の騒音は、≤80 dB(A)の要求を満たしました。
騒音値は所定の試験室条件で得られたモーター単体の代表値であり、完成したスタンドミキサーの騒音仕様ではありません。機器全体の騒音は、筐体、ギヤボックス、取付方法、アタッチメント、防音構造、回転速度、全体設計によって変わります。
7. 駆動系全体からの検討
スタンドミキサー用モーターの小型化では、寸法だけを検討しても十分ではありません。
駆動系全体について、次の項目を評価します。
- モーター構造
- 固定子巻線の配置
- 電磁パラメーター
- 積層構成
- ギヤボックス構造
- トルク・回転速度特性
- 寿命
- 騒音特性
- 機器への組込み
実際の使用条件に合わせ、小型化、出力密度、伝動性能、信頼性、騒音のバランスを検討します。
8. 想定用途
このコンパクトな二系統出力構造の想定用途:
- 家庭用スタンドミキサー
- 業務用スタンドミキサー
- 多機能食品加工機器
- 高速・低速出力が必要な小型厨房機器
取付スペース、出力、回転速度、トルク、変速比、運転サイクル、寿命、騒音の要求に合わせて、モーターとギヤボックスを設計できます。
まとめ
コンパクトなスタンドミキサー用モーターの開発では、モーター構造、電磁系、ギヤボックス、出力回転速度、トルク、寿命、騒音を併せて検討します。
扁平型モーター、オフセット配置の固定子巻線、積層構成の最適化、高速側1:1かさ歯車、低速側遊星歯車減速を組み合わせ、コンパクトな二系統出力駆動方式を構成しました。
性能データ、トルク特性、寿命評価、モーター単体の騒音測定は、家庭用・業務用スタンドミキサーへの採用検討の基礎情報となります。
ヘッド部の取付スペースを抑えながら、必要な出力と複数の機能を確保したいOEM・ODMのお客様に、用途に合わせたモーターとギヤボックスを開発します。
参考資料
[1] 国際電気標準会議(IEC)。IEC 60034-1:2026、回転電気機械 第1部:定格及び特性。
[2] 国際電気標準会議(IEC)。IEC 60335-1:2020+AMD1:2025、家庭用及びこれに類する電気機器の安全性 第1部:通則。
[3] Power Motor R&D Center。スタンドミキサー用途におけるモーター性能・信頼性の代表的な評価データ。所定の試験条件で取得した社内技術データ。
技術データについて
本文の性能値、試験結果、曲線、技術データは、所定の条件で得られた代表的な結果であり、技術検討の参考情報です。実際の性能は、使用条件、電源入力、負荷、回転速度、温度、制御方式、ギヤボックス、製造公差、組込み条件などによって変わります。最終仕様と性能に関する合意は、用途ごとの検証と、双方で確認した技術仕様に基づいて定めます。
顧客固有の寸法、インターフェース、図面、機密製品情報は掲載していません。
